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noteメンバーシップを2024年7月から始めました。Keiが日常的に実践するミクロレベルのソーシャルワークで得た失敗経験を共有し、同じような失敗を予防していく狙いがあります。Keiは学者ではないので体験談が中心ですが、必ずみなさんの実践に還元できます。
- 医療ソーシャルワーカーって何する人?
- 医療ソーシャルワーカーの仕事内容は?
- 医療ソーシャルワーカーの年収は多い?
社会福祉士の中では聞き覚えのある医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)ですが、実際は「MSWがどのような仕事をしているかわからない」という人が非常に多いです。
私は約3年間二次救急の地域医療支援病院でMSWをした後に、現在は三次救急の地域医療支援病院でMSWをしています。しかし他の専門職から求められる「MSW像」と私が考える「MSW像」のギャップに苦しんできました。
この記事では、医療機関におけるMSWの役割と実際に現場から求められていることについてのギャップを解説します。
この記事を読めば「医療機関におけるMSWの理想と現実」が全てわかります。
私が約6年かけて培ってきたMSWのノウハウや経験を凝縮しました。現役MSWである点を活かして解説しますので具体的な内容となっています。
医療ソーシャルワーカーの役割を忖度なしで解説します。
医療ソーシャルワーカー(MSW)とは
医療ソーシャルワーカーの職能団体である公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会では、医療ソーシャルワーカーは下記のように謳われています。
保健医療機関において、社会福祉の立場から患者さんやその家族の方々の抱える経済的・心理的・社会的問題の解決、調整を援助し、社会復帰の促進を図る業務を行います。
公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会
MSWは全国でおおよそ2万人いる
全国には20万人以上の社会福祉士が様々な分野で活躍をしています。
高齢分野、児童・家庭分野、医療分野、地域社会・多文化分野などカテゴリーは多岐に渡ります。
中でも医療分野が主戦場となっている社会福祉士は、一般的にMSWと呼ばれています。
公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会のホームページによれば、2023年3月24日現在の会員は、5,398人とのことでした。会員は年々減少傾向なようです。
このほかに、福祉医療機構が運営するWAM NETによると、2017年10月現在で医療施設で働く社会福祉士、精神保健福祉士、医療社会事業従事者の数は27,562人とされています。
MSWは病院における唯一の「福祉専門職」
MSWは、医療機関において患者さんやご家族が抱える悩みや問題を見つけ出し、問題の解決を図るために行政、民間団体等との連携、調整を行う「福祉専門職」です。
医療機関に配置されているので、医療専門職の括りに入ると思う方も多いかもしれませんが、位置付けは、医療機関に配置された福祉専門職です。
MSWになったばかりの人は、医療用語が分からないという言葉を耳にしますが、MSWは福祉専門職であり分野が元々異なりますので他の医療専門職と比べて劣るのは必然的と言えます。
その代わりに、医師や看護師、セラピスト等よりも、優っている部分で戦うのです。
家族、行政、民間団体など、地域におけるあらゆる社会資源を活用してクライエントにとって、より良い生活を送れるように支援する専門職といえるでしょう。
MSWをするには診療報酬の側面で資格が重要
MSWは主に病院、保健所などに配置され、社会福祉士、もしくは精神保健福祉士の資格を有する人が多いです。
資格がなくてもMSWを名乗ることは可能ですが、病院で働く場合は資格の有無によって大きく変わってきます。
社会福祉士、精神保健福祉士を対象とする診療報酬が存在することが大きな理由です。
具体的に説明すると、国が病院へ支払うお金の中に社会福祉士、精神保健福祉士が配置されていると、病院に多くお金が入ってくる仕組みが存在するのです。
入退院支援加算、介護支援等連携指導料、認知症ケア加算etc…
「資格なしのMSW」は人件費を圧迫するのみに対して、お金を病院に還元できるため、資格取得を採用条件にしている病院が多いです。
病院経営の面からみれば、資格取得者を優先するのは当然です。
医療ソーシャルワーカーの業務内容
医療ソーシャルワーカーの業務内容について説明していきます。
厚労省『医療ソーシャルワーカー業務指針
- 療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助
- 退院援助
- 社会復帰援助
- 受診・受療援助
- 経済的問題の解決、調整援助
- 地域活動
MSWは、厚生労働省の医療ソーシャルワーカー業務指針に則り業務を行なっています。
一つずつ解説していきます。私は急性期病院で勤務しているため、参考程度でお願いします。
1. 療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助
患者さん(特に救急患者さん)は、抱えている生活問題や心理、社会的問題をそのままにして、突然の病院受診を余儀なくされる例が多いです。そのため、身体治療と同時に顕在化する心理、社会的問題へのアプローチを行います。
≫身寄りなしや健康保険未加入等のソーシャルハイリスクアプローチ
病気の告知を受けた、患者さんの不安な気持ちにも寄り添います。
例として、がん相談支援センターに配置されているがん専門相談員のMSWがいたり、エイズ拠点拠点病院に専従のMSWを配置している病院があります。
2. 退院援助
MSWといえば「退院支援」を思い浮かべることが多いと思います。
主治医をはじめ、院内スタッフと連絡・調整を行いながら、退院時期、活用できる社会資源、介護ができる条件などの様々な状況を確認し、在宅復帰へ向けた支援を行います。
入院している患者さんが元の生活に戻れるように援助します。
在宅への退院が難しい場合、適切な転院先、施設などのご紹介、転院の調整をします。高齢の方は入院の影響で「生活動作の低下」や「継続して医療処置が必要」等、様々な問題に直面することが多いです。
「医療」と「福祉」のハブになることができるMSWは、退院支援に欠かせません。MSWの悩みとして多く散見される「追い出し屋」といわせない面接技術を下記で解説していますので、参考にしてください。
3. 社会復帰援助
患者さんの社会復帰の援助を行います。
怪我や病気の影響で学校を休んでしまった学生へ学校で孤立しないような体制構築や、同じく怪我や病気の影響で仕事を辞めた患者への職業の斡旋などが該当します。
近々は、病気と仕事が共存する「両立支援」が推進されています。
治療が必要になると、以前の通りには働けなくなるケースが出てきます。治療しながら働くことを希望する人にとっては、治療と仕事を両立させることができるのかは大きな問題です。
厚生労働省のホームページでも「両立支援」は推進されています。治療と仕事を両立させるには、「本人」の病態や「主治医」と同等程度に「職場(事業場)の理解」が必要です。
4. 受診・受療援助
文字通り患者さんの受診、受療援助を行います。入院中、外来(入院外)は問いません。
具体的にはアルコール依存症の方への断酒会(ピアサポートを含む)への斡旋や、透析患者が通院するための手段をクライエント一緒に考えたりします。
また、医療は専門用語が多く、医療従事者の説明が患者さんに上手く伝わらない場合があります。
MSWが仲介して患者さん伝わるよう斡旋したり、必要に応じて、他の医療従事者に患者さんの情報提供をしたりします。
5. 経済的問題の解決、調整援助
MSWをしていると入院、外来を問わず、経済的に不安を抱えている患者が多いことに気づきます。
健康な私たちでさえ、高い金額の買い物をしたときや、養育費など様々な場面で経済的不安を抱えることも少なくありません。
医療機関の受診は、多かれ少なかれお金の負担が必要になります。特に入院の場合はどのくらい入院するかはっきりとわからないことが多いため、不安も増加します。
MSWは、様々な医療福祉制度を利用できるように支援します。具体的には、高額療養費、生活保護等が該当します。
6. 地域活動
地域包括ケアシステムが謳われている昨今において、地域活動は年々重要性を増しているように感じます。
2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書で、国は「病院完結型」から地域全体で治し、支える「地域完結型」を目指すと謳っています。
「病院完結型」から「地域完結型」になるにあたり、患者さんが地域でその人らしい生活が出来るよう、関係機関、関係職種との連携を図ります。
≫ 現役社会福祉士が病院機能と「地域完結型医療」について解説
地域の情報を私たちが把握しているかしていないかによって、患者の生活は大きく変わってきてしまいます。
地域特有のニーズや課題に対処し、社会的な変革や福祉の向上を促進するソーシャルアクションは、極めて重要です。
私の地元では、買い物に行けなくなった高齢者を対象に格安料金で、地域のスーパーを巡回するバスが利用できるサービスがあります。
MSW(特に新人)はバーンアウトしやすい
MSWの業務は、地域、組織などありとあらゆる部門と密接に重なっています。
実際の臨床現場は、ここで解説したようなことはもちろんですが、業務内容の枠組みを超えるような相談も多岐に渡ります。
MSWは、バーンアウト(燃え尽き症候群)が多いことで知られています。
MSWの業務内容のほとんどが「数字で成果を表せない仕事」であるため過度なストレスがかかり、バーンアウトを引き起こすことが少なくません。
バーンアウトは成果が可視化されない仕事に多い
ソーシャルワーカーのようなエモーショナルレイバー(感情労働)は、感情を偽ることでストレスが蓄積し、バーンアウトにつながるリスクがある。
— Kei@社会福祉士 (@kei5850) June 15, 2024
社会人の暗黙のルールである「不快感を顔に出すな」が、不快感になる環境下では「無理な笑顔」や「過度な相槌」が心に大きな負担をかけることが多い。
バーンアウトとは、ビジネスの場で緊張感の持続を強いられ、その努力の成果が現れにくい仕事に就いた人に多くみられるとされています。
職場の人間関係や、患者さん、家族との関係の中で、傷ついたり、疲れたり、ストレスを溜めることも原因となり、介護職などの対人サービス事業者に多く見られる傾向があります。
バーンアウトの主な症状としては下記の通りです。
- 業務への気力を失い、心身ともに疲れ果てた不適応状態
- 情緒的消耗感(心身ともに疲れ果てたという感覚)
- 個人的達成感の低下(業務に対するやりがいの低下)
- 脱人格化(相手の人間性を軽視し、人間として大切に扱わなくなる)
MSWのミスはバーンアウトに直結する
MSWの退院・転院支援は入院の最後をマネジメントする重要な役割です。
転院先・退院先との連携であったり、介護タクシーの手配(MSWが手配する病院の場合)などが主たる例です。
MSWが行う連絡調整はミスがなくて当たり前であるため、非常に精神的に辛い部分です。
「褒められることは少なく、責任を問われることは多い」という仕組み上、バーンアウトしやすい傾向にあると言えます。
≫ 現役社会福祉士6年目が本気で考えるMSWの将来とキャリア形成
バーンアウトは事前の対策が重要
一般的なビジネスにおける対策は下記の通りです。
- 早期発見
- 職場配置や職務体制、職場内外での職員研修を通した対策
- 上司や同僚等への自己開示(仕事上の悩みを相談する。職場での不満を話すなど。)
MSWは、看護師のように院内にたくさん配置されているような職種でありません。
多くの病院のMSWは少数先鋭体制です。
負担の少ない支援を先輩にトリアージしてもらうなどの工夫が必要だと思われますが、MSWの置かれている環境が大きく影響するので一概にはいえません。
入退院加算1を算定している病院は、病棟配置を変更するなどして対策が取れるでしょう。
MSWがバーンアウトを予防するカギは「タスクシフト」
バーンアウトを予防するコツは「連携業務をタスクシフト」することです。
リハビリを例にして考えてみます。
MSWはリハビリに関して多少の知識はありますが、セラピストと比べたら劣ることは明確です。
施設の相談員や、在宅のケアマネへ患者さんのリハビリ状況を伝えることは、MSWではなくセラピストが適任です。その斡旋をすることも立派な連携です。
その都度MSWがセラピストに確認するよりも、実際に臨床をされているセラピストが伝える方が説得力があります。
施設の相談員やケアマネは「MSWより専門的な話が聞ける」セラピストは「MSWより専門的な情報を伝えることができる」
MSWが伝えるよりも正確で、何よりMSW自身の説明責任負担が軽減されます。自身のMSWの立場、名声、職場の雰囲気等でうまく事態が進まないこともたくさんあるでしょう。
MSWは、病院内で密にコミュニケーションを図り、MSWとして、他職種から認めてもらわなければなりません。
多様性の社会においてMSWの需要は増していく
繰り返しになりますが、MSWは病院内で唯一の「福祉専門職」であるため本質的な仲間がいません。
しかし、MSWの評価はこの多様性のある社会に伴って年々上がっています。
理由として、MSWが依然としてもがき苦しんでいた「医学モデル」と「生活モデル」のジレンマが解消に向かっていることが挙げられます。
MSWは「医学モデル」と「生活モデル」のジレンマに苦しんできた
病院に所属している医療専門職の多くは「医学モデル」がベースです。
医学モデルは、病気の治癒、治療、救命を目的として行われ、医師をはじめとした支援者が方針を決定します。
病院という箱物で「治療」に焦点を当てて生活動作の獲得を主な目的とします。
一方で、MSWは「生活モデル」がベースであるため、考え方に差異があります。
生活モデルは、生活の質の向上(QOL)が目的であり、人、環境、生活を考慮して患者さんを含めた他職種で方針を決定します。
地域(在宅)を中心として展開し「人と環境の相互作用」に焦点を当ててQOLの向上を主な目的とします。
どちらが優れているとかではなく、双方が共存していく医療を展開して行くことが重要です。
社会福祉士である私は「クライエントのニーズ」を優先させるのか、「地域の社会資源」という箱物に無理矢理当てはめるのかいつも狭間で揺れている。
— Kei@社会福祉士 (@kei5850) July 30, 2023
揺れているのにも関わらず、7割は「地域の社会資源」を選択している。
上記は「クライエントのニーズ」を生活モデルに見立て、「地域の社会資源に無理やり当てはめる」を医学モデルに見立てました。
現場のMSWもまだまだ「医学モデル」の圧力に押されており、本来の「生活モデル」に沿った実践が満足に展開できていない実情が伺えます。
「生活モデル」は「医学モデル」の想像を超えてくる
臨床現場では、患者さんの置かれている治療の見立て、予後、環境や家族、介護保険などの社会資源を駆使して総合的に判断することになります。
これまで生活されてきた患者さんの環境や文化によっては、医療従事者が客観的にみて困難と予想される介護や医療処置を希望される場合があります。
医学モデルの考え方では「こんなことできるわけない」と思っていても、実際にやってのける患者さんが存在します。
「こんなことできるわけない(医学モデル)」という考え方が「このような場合もあるんだ(生活モデル)」という考え方になるような人材をMSWが育てて行く必要があります。
国も「生活モデル」を推進している
「医学モデル」の病院内で完結する考え方では対応しきれない事例が医療現場で頻発しています。
・医療費の支払いができずに治療を自己中断する
・認知症があり薬を飲み忘れてしまう
・交通手段がなくて病院に通院できない
このような事例には社会背景要因にもアプローチしていかないと患者さんの健康は守れないという「生活モデル」の考え方が普及してきています。
「生活モデル」は国の政策を通して推進されています。令和4年度診療報酬改定では在宅医療を拡充するための改訂内容が盛り込まれています。
MSWの需要は年々増しています。
この記事のまとめ
現役MSWが実際に解説すると、やはり理想論だけでは語れない部分が多々あります。
第14回社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会では医療分野で就労されている社会福祉士(MSW)は全体のわずか14.7 %しかいません。
しかし、国はMSWを必要としています。
国は先述したとおり「病院完結型」から「地域完結型」を目指すと謳っています。「地域完結型」の医療を展開するために、MSWが行う医療と福祉をつなぐハブ的役割が求められています。
「医学モデル」から「生活モデル」に移行しようとしているこの機会に、MSWとしての価値を高めていく必要があります。
今回は「医療ソーシャルワーカーの役割と現実」について解説しました。「役割と現実」を知ることも重要ですが、MSWにしかできないことを理解するはさらに重要です。
以下の記事では「MSWが今後も第一線で活躍できる理由」を解説しているので、こちらの記事もぜひ併せて読んでみてください。
MSWに是非とも読んでほしい本が以下のものです。
このたび、Keiが実践するミクロレベルを中心としたソーシャルワークの失敗経験を共有して、各ソーシャルワーカーの実践に落とし込むメンバーシップ(初月無料で月額590円)を開設しました。
Keiがソーシャルワーク実践の過程で得た学びや、考え方、直面した問題などを「一番近くの席で見られるリアルタイム型のメイキング」みたいなものです。
認定医療ソーシャルワーカーであり、救急認定ソーシャルワーカーでもあるKeiが、メンバーシップの会員しか読めない記事を1ヶ月に3回以上投稿しており、読み物としてお楽しみいただけます。
以下2つの本は、MSWとして臨床している際に、何度も読み直しています。
医療福祉総合ガイドブックは、MSWが日々の臨床で利用する様々な社会資源が解説されており、曖昧になった知識の復習に役立ちます。
マンガでわかる介護入門は、MSWが生涯説明する社会資源No. 1である介護保険制度についての本で、説明回数が多いが故に、怠惰になりがちな心をリセットできる本です。
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