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noteメンバーシップを2024年7月から始めました。Keiが日常的に実践するミクロレベルのソーシャルワークで得た失敗経験を共有し、同じような失敗を予防していく狙いがあります。Keiは学者ではないので体験談が中心ですが、必ずみなさんの実践に還元できます。
ある患者さんが入院中にせん妄になり大部屋の別の患者さんにせん妄が連鎖した。
— Kei@社会福祉士 (@kei5850) May 12, 2024
声掛けでは収まらなかった。
→大部屋にいたせん妄の患者さんを個室に移して静かな環境で療養する(人と環境の相互作用)とせん妄が収まった。
社会福祉士の後輩がシステム理論の説明で腑に落ちたとのことなので共有する。
「根拠のあるソーシャルワーク」を体現化する上で重要なシステム理論ですが、実践に落とし込めている人は多くありません。
私は、救命救急センターが設置されている病院で医療ソーシャルワーカー(以下MSW)としている社会福祉士7年目で、毎月5,000PV以上のソーシャルワーク関連のブログやX (フォロワー1,400人以上)等を発信しています。
社会福祉士取得後、最速で認定医療ソーシャルワーカーと救急認定ソーシャルワーカーを取得しました。
当記事では、システム理論と福祉のつながりについてわかりやすく解説します。
この記事を読めば、システム理論をソーシャルワーク実践に落とし込むことができます。あらゆる状況に応用できる理論なので覚えない理由はありません。
医療ソーシャルワーカー(以下MSW)がシステム理論を理解することで、良質な福祉サービスの提供や政策の計画に役立ちます。
システム理論は「人と環境を一体のものとしてとらえる」
システム理論は「人と環境を構成する要素が相互に関連し合い、全体として機能する」という考え方に基づいています。
あらゆる社会の単位を「環境(システム)」として捉え、その相互作用や関係性を分析します。
環境とは、人(クライエント)を取り巻くすべてのものです。
システム理論の「システム」は「仕組み」の意味ではありません
システム理論は、ソーシャルワーク以外の日常生活や社会のさまざまな分野で非常に重要な役割を果たしています。
例えば、自動車はエンジン、タイヤ、ブレーキ、ハンドルなど、それぞれの部品がどれも重要ですが、これらが連携することで初めて自動車として機能します。
システム理論は、部分と全体の関係を考えるアプローチであり認定医療ソーシャルワーカーがあらゆるソーシャルワーク実践に落とし込んでいます。
システム理論とソーシャルワーク
MSWが支援をする際、クライエントを単独で捉えるのではなく、クライエントが属するシステム(家族、コミュニティ、職場など)全体の中で理解します。
システム理論は、ソーシャルワークにおいて以下のように活用できます。
システム理論×医療ソーシャルワーク
システム理論を医療ソーシャルワークに応用することで、患者さんを取り巻く環境全体を理解し、包括的な支援を提供することができます。
MSWはクライエントやコミュニティ全体のニーズを考慮し、相互作用や変化の影響を理解しながら最適な支援を提供することで、クライエントの生活の質が向上します。
全体性(システム)
システム理論では「個々の要素が全体にどのように影響を与えるか」を重視します。
医療ソーシャルワークでは、患者さんの問題が患者さん自身のみならず、その家族や社会にも影響を与えることを考えます。
例えば、患者さんが重い病気で入院した場合、家族は経済的負担や心理的ストレスを感じることがあります。
MSWは、患者さんだけでなく家族全体のサポートを行い、経済的支援やカウンセリングを提供することで、全体のバランスを整えます。
相互作用
システム理論では、システム内の要素同士の相互作用が重要です。
医療ソーシャルワークでは、患者さん、家族、医療スタッフ間の相互作用を重視し、それぞれの行動が環境にどのような影響を与えるかを理解します。
例えば、医療スタッフの態度やコミュニケーションが患者さんの治療に対する理解や意欲に大きな影響を与えることがあります。
MSWは、患者さんと医療スタッフの間のコミュニケーションを改善し、相互理解を促進することで、治療効果を高めるサポートを行います。
「人と環境の相互作用」は心理社会的アプローチにも深く関連しています。
変化の影響
システム理論では「システムの一部が変わると全体に影響を与える」と考えます。
医療ソーシャルワークでは「患者さんの状態が変わると、その変化が家族やコミュニティ全体にどのような影響を与えるか」を考えます。
患者さんが退院して在宅療養を始める場合、その準備やサポートが家族に求められます。
退院前に家族と連携し、在宅療養に必要なリソースやサポートを提供することで、家族全体がスムーズに適応できるようにします。
MSWはコーディネーションの役割を担います。
システム理論を活用するための面接技術は下記で解説しています。
システム理論×家族療法
家族療法は、家族全体のバランスを取り戻すための介入が行われます。システム理論に基づいて家族全体の相互作用やコミュニケーションパターンを改善することを目指します。
家族全体をひとつのシステムとして捉え、家族メンバー間の問題は「個々の問題としてではなく、家族全体の関係性やコミュニケーションの問題」として理解されます。
家族全体の関係性を理解し、改善する効果的な手段となります。全体性、相互作用、変化の影響という視点を用いることで、家族全員が協力して良好な関係を築くことが可能になります。
全体性(システム)
ある家庭で父親が失業した場合、単に父親一人の問題ではありません。母親に経済的な不安を与え、子どもたちが家庭の不安定さを汲み取る可能性があります。
結果として、家族全体がストレスを感じるようになります。
家族療法は「家族全員が互いに影響を与え合っている」という考え方です。
相互作用
家族におけるメンバーの行動や言動が他のメンバーにどのような影響を与えるかを理解します。
ある家庭で兄弟が頻繁にケンカをしている場合「そのケンカが他の家族メンバーにどのような影響を与えているか」を考えます。
兄弟のケンカが原因で、母親はストレスを感じ、家族全体の雰囲気が悪くなることがあります。
親が子どもに対して厳しく叱ると、子どもが反発して問題行動を起こすという悪循環に陥ることもあります。
家族療法では、家族メンバー間の相互作用を重視します。
変化の影響
システム理論では「システムの一部が変わると全体が影響を受ける」と考えます。家族療法でも「一人のメンバーの変化が家族全体にどう影響するか」を重要視します。
例えば、母親が自己成長のためにカウンセリングを受け始め、自分のストレスをうまく管理できるようになったとします。
お母さんの自己成長により態度が穏やかになり、家庭内の雰囲気が良くなります。
父親もその変化に気づいて協力的になったり、子どもたちも安心感を持って学校のことや友達のことを話せるようになるかもしれません。
一人のメンバーのポジティブな変化は家族全体に良い影響を与えることが少なくありません。
システム理論のソーシャルワーク実践モデル【2つ】
システム理論は、ソーシャルワークにおける多様な問題に対する包括的なアプローチを提供します。
クライエントを取り巻く複数のシステムを理解し、その相互作用を改善することで、より効果的な支援が可能になります。
以下でソーシャルワークの実践モデルを2つ解説します。
システム理論と両立支援の事例
職場での長時間勤務や、部下や幹部との間に挟まれて体調を崩してしまった事例です。
仕事と治療を並行して行う両立支援はMSWにおいて重要な支援です。
Keiも、両立支援コーディネーターの資格を所持して、両立支援を行なっています。
MSW及びPSW(社会福祉士・精神保健福祉士)は、診療報酬の療養・就労両立支援指導料を算定する要件に組み込まれています。
職場環境(システム)の評価
クライエントの職場環境を評価します。
例えば、過度な業務負担やハラスメントがストレスの原因となっている場合、それを緩和するための対策を考えます。
個人(人)と職場(環境)の相互作用
クライエントが就労する職場での行動パターンや対応方法を分析し、ストレス管理及びコミュニケーションスキルの向上を支援します。
職場外の支援体制も重要です。クライエントが職場外でどのようなサポートシステムを持っているかを評価して活用を促します。
アディクションによる家庭内暴力の事例
例として、夫が妻に対して行う家庭内暴力のケースで解説します。妻だけでなく夫や家庭全体を把握し、家族全体の心の動きや変化(ダイナミクス)を理解することが重要です。
妻に対する直接的な支援(カウンセリングやシェルターの提供など)に焦点が当てられることが多いですが、システム理論を適用すると、以下のように包括的な視点が加わります。
・妻の状況理解
・夫の行動パターン
・家族全体の心の動きや変化(ダイナミクス)
アディクションは、救急医療の現場において早期にアプローチすることが効果的あり、救急認定ソーシャルワーカーにも求められる技術です。
妻の状況理解
「妻がどのような環境で生活しているのか」その背景を理解するために、家庭内の心の動きや変化を分析します。
家庭内暴力に至るまでには必ず「きっかけ」があります。「きっかけ」となった根本の問題が解決されない限り一次逃れの支援になりかねません。
例えば、妻が経済的に夫に依存している場合、独立するための支援が必要です。
この事例では、夫の「妻とはこうあるべき!」という数々の固定概念によって専業主婦を余儀なくされており、就労が許されていませんでした。
アディクションは、クライエントのアドボカシーを見失わずに支援することが重要です。下記でアドボカシーについて解説しています。
夫の行動パターン
夫の行動パターンやその背景にあるストレス要因を理解します。
加害者に対するカウンセリングや治療プログラムの提供も考慮します。
この事例では、夫のアルコール依存症が原因で妻が暴力が振るわれていましたが「夫がアルコール依存症になった背景」も評価する必要があります。
依存症回復支援に関しては、noteで解説しています。
家庭全体の心の動きや変化(ダイナミクス)
家庭全体のコミュニケーションパターンや力関係を分析し「暴力がどのように発生し、どのように家庭内で認識されているか」を理解します。
家庭内で認識されている中枢を見つけることができれば、家庭全体に対する支援計画を立てることができます。
この事例では、仕事のストレスで毎晩飲酒を繰り返す亭主関白の夫が頻繁に妻に対して暴力を振るわれていました。
同居の子どもは毎晩辛い思いをしており、心理的虐待があったといえます。
アディクションや虐待はソーシャルハイリスクに分類されます。MSWも支援に大きなストレスになるため、セルフケアを怠らないようにしましょう。
まとめ
システム理論は、ソーシャルワークにおいて非常に強力なツールです。表面的な問題解決ではなく、根本的な変革を目指すことができます。
個人や家族(人)、コミュニティ全体を包括的に理解(環境)し、相互作用を改善することで効果的な支援が可能となります。
今回は「システム理論と福祉のつながり」について解説しました。
システム理論を学ぶことも重要ですが、「システム理論を実践で活かす現場の選び方」はさらに重要です。
以下の記事では「MSWの理想のキャリア形成」について解説しているのでこちらの記事もぜひ併せて読んでみてください。
このたび、Keiが実践するミクロレベルを中心としたソーシャルワークの失敗経験を共有して、各ソーシャルワーカーの実践に落とし込むメンバーシップ(初月無料で月額590円)を開設しました。
Keiがソーシャルワーク実践の過程で得た学びや、考え方、直面した問題などを「一番近くの席で見られるリアルタイム型のメイキング」みたいなものです。
認定医療ソーシャルワーカーであり、救急認定ソーシャルワーカーでもあるKeiが、メンバーシップの会員しか読めない記事を1ヶ月に3回以上投稿しており、読み物としてお楽しみいただけます。
本を活用して勉強することもオススメです。以下の本は「MSWに一人一冊必要」といっても過言ではないほど、ソーシャルワーク実践に役立つ社会資源や制度の知識が満載です。
こちらもぜひご検討ください。
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