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noteメンバーシップを2024年7月から始めました。Keiが日常的に実践するミクロレベルのソーシャルワークで得た失敗経験を共有し、同じような失敗を予防していく狙いがあります。Keiは学者ではないので体験談が中心ですが、必ずみなさんの実践に還元できます。
・医療ソーシャルワーカーの仕事きつすぎ
・でもどんなときがきついのかパッとででこない
・医療ソーシャルワーカーのきつい仕事を教えて
医療ソーシャルワーカー(以下MSW)をしていると、外来や病棟等様々な経路から、意図してない相談ががあります。難しいケースの場合、半日以上を費やすことになるケースも少なくありません。
私はMSWとして5年以上病院に勤務しています。約3年間二次救急の地域医療支援病院でMSWをした後に、現在は三次救急の地域医療支援病院でMSWをしています。
この記事では、MSWのきつい仕事10選を解説します。
この記事を読めば「MSWのきつい仕事を可視化する」ことができて「きついと思っているMSWが他にもいる」と思えることでバーンアウトを防ぐことができます。
MSWのきつい仕事の多くは、ソーシャルハイリスクのある患者さんへの支援です。具体的な内容を下記にまとめましたのでMSWの仕事がきついと思っている人は、きつい内容を可視化するためにも最後まで読んでください。
ソーシャルハイリスクとは
ソーシャルハイリスク(social high risk以下SHR)とは、MSWによる支援の必要性が高いと予測される社会的・心理的リスクのある患者さんで、高度急性期・急性期の病院で多く拝見される傾向にあります。
救急医療を提供される傍らで、診療的問題とは別に社会的問題が顕在化することがあります。
時には、その社会的問題が原因で、安心・安全な医療が提供されなかった。或いはできなかったという状況に陥っている場合があります。
SHRへのアプローチはMSWが適任
医療ソーシャルワーカーの主な仕事が退院支援であることに異論はないが、ソーシャルサポートを要するクライエントの担当数が増えるほど「社会福祉士やってるな」と実感する。
— Kei@社会福祉士 (@kei5850) September 26, 2023
無論、支援する必要がないに越したことはない。
MSWは、安心・安全の医療を提供する基盤を整えるために、SHR患者さんへの早期のアプローチ(社会的救命)が必要になります。
MSWは、地域のネットワークを詳細に把握しており、あらゆる手段を駆使して、社会的・心理的問題を解決する知識の引き出しを備えています。
社会的救命とは、患者さんに対する社会的側面のアセスメント、課題の抽出と解決策の立案に関する医療保険制度や生活保護などの公的扶助等をニーズに応じて活用することを指します。
社会的救命は、個人や専門家、ボランティア、消防署、医療機関、赤十字社など様々な機関によって行われ、社会全体の安全と福祉に貢献します。
救急医療の現場は、肉体面、精神面が重要なのはもちろんですが、社会面も重要になるため、社会面へのアプローチとしてMSWが活躍します。
MSWのきつい仕事=SHR
SHRになり得る要素がある患者さんは以下の10選です。
- 虐待(小児・高齢者・DV等)
- 周産期
- キーパーソン不在
- 自殺企図
- アディクション(薬物・アルコール等)
- 精神疾患(認知症・高次脳機能障害等含)
- 外傷
- 身元不明(路上生活者を含)
- 外国人
- 経済的困窮(無保険等)
どの社会的問題も、医療のみで解決することは難しい要素が含まれています。疾病の程度が重症でない患者さんにもアプローチが必要になることがわかります。
SHRの患者さんはこの要素を、複数抱えて受診されることもあるため、状況に応じた支援が求められます。
虐待(小児・高齢者・DV等)
虐待は、近年大きな社会的問題としてメディアにも大きく取り上げられています。親から子へ対する虐待や、介護施設でも高齢者虐待等、悲惨なニュースが後を絶ちません。
虐待は、医療機関へ受診した際に顕在化することが少なくありません。不自然なアザや、骨折、明らかに不衛生な身体など医療の所見から虐待に結びつくことがあるのです。
特に、児童虐待の疑いがあれば、速やかに行政機関へ通告しなければならない義務があります。
児童虐待の対策としてこども家庭福祉の認定資格(こども家庭ソーシャルワーカー)が検討されており、国が児童虐待防止するための意欲が伺えます。
厚生労働省による令和3年度児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)によると児童相談所での児童虐待相談対応件数は一貫して増加しており、最新の情報では207,659件と過去最多件数を記録しています。
周産期
妊娠していることを、何らかの理由で黙秘しており、お産の寸前で健康上や生命の問題が発覚した際に、社会的問題が顕在化します。
周産期には出産準備や育児にかかる費用がかさむため、貧困層の家庭では経済的ストレスが増加し、子どもや母親の健康に悪影響を及ぼすことがあります。
母子手帳などの各種手続きが行なっていなかったり、人間関係等が原因で身体・精神的に問題を抱えている場合があります。妊娠中や出産後に家庭内暴力が増加することもあり、先述した児童虐待につながるケースも少なくありません。
周産期は国、非営利団体、医療機関、地域コミュニティ等で連携して解決する必要があり、周産期の母親と新生児の健康と幸福を促進するためのアプローチが重要です。
キーパーソン不在
医療の同意が何らかの形で得られない場合や、入院が必要な場合等に頻繁に顕在化します。
キーパーソン不在の場合、患者さんの過去の既往歴やアレルギー情報などが不十分なままになる可能性があり安全な医療を提供できないリスクが高まります。
深刻な高齢化も相まって、身寄りのない高齢者であったり、独居であったり、様々な人間関係によって他者への協力を仰げない患者さんもいます。
悪徳の高齢者関連施設が、都市部の生活保護を受給されている高齢者を入所させて取りっぱぐれのない収入を利用した貧困ビジネスの代償を、病院が代わりに担うといった風評被害に遭遇する可能性もあります。
病院でキーパーソンが不在の場合、リスクを最小限に抑えるために代替できる社会資源や医療記録の整備、スタッフの連携が重要になります。
自殺企図
自殺企図の理由は様々ですが、複雑な要素がきっかけとなって、精神面を著しく保てなくなったことで起こり得る可能性が高いです。自殺企図に至った背景に着目して、MSWは支援を展開していく必要があります。
厚生労働省による令和4年版自殺対策白書によると30代以下の死因は自殺が最も多いという統計が出ています。30代以下で死因の第1位が自殺となっているのは、先進国(G7)では日本のみである点も見逃すことはできません。
社会復帰に向けて、医療のみでは決して顕在化しない心理的な側面へのアプローチは、技術や経験を要します。患者さんの気持ちや経験を傾聴し感情を表現できる安全な環境を提供できるように対話を通じてサポートします。
自殺に関する支援は繊細で専門的なアプローチが必要です。MSWのみで対処するのではなく、PSWや精神科医師等の他職種で連携することが重要です。
精神科のない病院は精神科のある病院へ転院を相談することが無難です。自殺企図は決して表面的な問題では解決できません。
アディクション(薬物・アルコール等)
アディクションは、実際に診断されたときも重要ですが、診断に至るまでの背景が非常に重要です。
アルコールであれば、何がきっかけとなってアルコールを多飲することになったのかを究明することが、回復に向けた重要なアセスメントになります。
アディクションそのものへの医療面からのアプローチはもちろんですが、並行して、心理的な問題や、患者さんの生の歩みや、アイデンティティ等社会面からのアプローチも極めて重要です。
アディクションの支援は専門的アプローチと個別のニーズにあったケアが必要です。クライエントの状況に応じて、適切な支援の形を模索しなければなりません。
精神疾患(認知症・高次脳機能障害等含)
精神疾患の患者さんは、自身の判断能力が乏しく、安心・安全な医療が提供できない可能性が高いです。しかし、病気の程度や特性上一筋縄ではいかないケースも少なくありません。
病院内で全てを完結することは基本的に困難で、地域との連携が重要です。
ポイントは、縦の関係になるのではなく、横の関係を心がけることです。患者さんの支援に、組織と地域の上下関係は不要です。
精神疾患患者さんへの支援は継続的なプロセスであり、個別ニーズと症状に応じてカスタマイズしていく必要があります。専門的なアプローチと個別のサポートが欠かせません。
外傷性疾患
交通外傷等のくも膜下出血や脳挫傷等によって、何気ない日常が一瞬にして人生を大きく変えてしまうことがあります。
外傷は介護保険制度が適用されないため、社会資源を活用する側面からも労力を強いられます。若年層に対する社会資源は多くないため、支援が難航します。
虐待が密接に関係する外傷の際は、行政を巻き込んで支援を行う可能性もあります。
外傷性疾患の支援は多面的であり、リハビリテーションや社会的サポート、精神的支援を駆使して総合的に支援を展開します。
身元不明(路上生活者を含)
その患者がどこの、誰なのかといった身元不明のまま救急搬送されてくるケースもあります。
救命と並行して、身元の特定を迅速な対応を迅速に行わなければなりません。行政、地域等を巻き込んだ総合的な支援が求められます。
身元不明者の特定は、情報収集と関係機関との連携を通じて成り立ちます。法執行機関や警察、身分証明証や所持品を確認して迅速に特定しなければなりません。
外国人
外国人の患者さんはシンプルに日本語でのコミュニケーションが難しいことが多く、安心・安全な医療の提供を阻害する場合があります。
在留カードを携帯していなかったり、健康保険などの各種手続きがおざなりになっていて、一から手続きを行うこともあります。
Kei
オーバーステイが判明した際は最悪で、支援は極めて困難を要します。
外国人の患者さんに対する支援は、文化的な壁と言語の壁を克服し安心して医療サービスを受けられるようにアプローチする必要があります。特に文化的な背景を尊重し感受性をもって接することが重要です。
経済的困窮(無保険等)
何らかの理由で経済的に困窮し、医療費を支払えないという事案が後を絶ちません。安心・安全な医療を受けるためには、経済面の安定は必要不可欠です。
MSWは、様々な社会資源を活用して患者さんに安心・安全な医療を提供できるような体制を整備することが求められます。
経済的困窮がきっかけで医療機関への受診を控えていた患者さんが、どうにもならなくなって救急搬送されてくる事案が後を絶ちません。
健康と貧困は表裏一体である。
— Kei@社会福祉士 (@kei5850) October 3, 2023
貧困な人ほど、健康への投資は後回しになる。その選択が裏目に出て急病となり、結果的に想定外の医療費を負担することになってしまう。
医療ソーシャルワーカーはこの現実を受け入れる度量が必要。
SHRが及ぼすMSWへの影響
SHRは、早期の支援を必要とします。非常にMSWにとってやりがいのある支援である一方で、MSW自身へ与える影響も少なくありません。
意図していないときに突発的に支援を強いられた際にどのような影響がでるか解説します。
多大なる時間がかかることが多く、予定を変更せざるを得なくなる
SHRは、今までの生活のツケが蓄積されて、病院を受診したことがきっかけとなって様々な社会的問題が顕在化します。
SHRに陥る患者さんは、短時間で全ての問題が解決することは極めて稀です。むしろ、地域や様々な社会資源で補填しても解決しきれないこともあります。
その支援に費やす時間は多大になることが多く、1日の予定の変更を余儀なくされることも少なくありません。
土日や夜間帯は支援の幅が極端に縮小される
市役所や児童相談所、地域包括支援センターをはじめとした行政機関の多くが土日、夜間帯はお休みです。しかし、SHRはそんなことはお構いなしです。
生活保護や難病医療を申請する際は、申請した日付が重要になりますので、行政機関が空いていない時間帯にその事案が発生した場合は、行政機関と根気良く交渉するしかありません。
労力が強いられることからくるストレス
SHRへのアプローチは、十中八九他者と連携する必要があります。他者の都合を考える余地もなく、時には強引にアプローチを行う場合もあるため、支援に多大なるストレスがかかります。
患者さんのために行なっている支援が、別の見方をみると患者さんの自業自得であるという解釈にも見て取れる場合があるため、バーンアウトを起こす原因になってしまいます。
バーンアウトに関してはこの記事で解説しています。
私が勤務している病院で実施しているSHRに対するスクリーニング方法
病院は、様々なツールを利用して、SHRに対してMSWが支援できるような体制を構築する必要があります。
私が勤務している病院はA4の書面を介してスクリーニングをしています。
救命救急センターの医師、看護師、事務員等から早期に介入が必要なケースは、必然的にMSWへ連絡が入る仕組みになっています。
スクリーニング項目は以下の通りです。
- 医療保険未加入者である
- 医療保険資格者証扱いである
- 入院協力者がいない
- 身寄りがない
- 日本語でコミュニケーションを取れる入院協力者がいない
- 他者からの暴力による外傷等の入院である
SHRを限定した理由
先述したSHRになり得る社会的・心理的問題の中でも、一層早期に支援が必要になるケースがスクリーニング項目にあげられています。
社会的・心理的問題の解決は「安心・安全な医療の提供」につながります。安心・安全な医療を提供するには、入院前の生活環境が大きく関わってくることがわかると思います。
MSWは、顕在化した社会的、心理的な問題へのアプローチが病院内で一番有効に行える専門職です。
SHRへのアプローチに対する結果がでればでるほど、病院内でのMSWの地位は上昇し、組織内での発言権や、人員、資材調達等の交渉における材料として用いることができます。
MSWのみでアプローチしやすいものに限定している
チーム医療でアプローチする方が良い成果を得られやすいSHRは当院のスクリーニング項目から除外しています。
アディクションや、外傷、精神疾患などは、医療における精査加療を待つ時間が発生しますが、当院におけるスクリーニング項目は、MSW単独で即座に支援が可能なものに限定しています。
病院に受診している以上、金銭は発生しますし、身寄りや入院協力者がいないことは、今後の生活においても大きな問題になりかねません。
虐待疑いを見過ごすことはできませんし、コミュニケーションが取れなければ安心・安全な医療が提供できません。
社会的問題に対するアプローチは、治療に関係なくMSW単独で行えるため、今後治療を進めていく上で起こり得る別の問題が表出される前にリスクを減らしておくことに繋がります。
この記事のまとめ
SHRのある患者さんを支援することはMSWの大きなやりがいえあることと同時に、多大なるストレスと紙一重です。
SHRの患者さんへのアプローチを乗り越えることができれば、MSWとしての経験値を大きく上げることに繋がりますので、初任者のMSWは積極的に挑戦して欲しいと思います。
今回は「MSWのきつい仕事」について解説してきました。SHRの対応を身につけることができれば、MSWとしての成長につながります。しかしSHRの対応は課題中心アプローチになりがちでMSWの基盤となるソーシャルワークを忘れがちです。
以下の記事では「ソーシャルワーク」について簡単かつ具体的に解説しているのでこちらの記事もぜひ併せて読んでみてください。
このたび、Keiが実践するミクロレベルを中心としたソーシャルワークの失敗経験を共有して、各ソーシャルワーカーの実践に落とし込むメンバーシップ(初月無料で月額590円)を開設しました。
Keiがソーシャルワーク実践の過程で得た学びや、考え方、直面した問題などを「一番近くの席で見られるリアルタイム型のメイキング」みたいなものです。
認定医療ソーシャルワーカーであり、救急認定ソーシャルワーカーでもあるKeiが、メンバーシップの会員しか読めない記事を1ヶ月に3回以上投稿しており、読み物としてお楽しみいただけます。
本を活用して勉強することもオススメです。以下の本はソーシャルワークの基本から応用まで余すことなく解説しているので、「ソーシャルワークについてもう一段階学びたい!」いう方は、こちらもぜひご検討ください。
医療福祉総合ガイドブックは、MSWが日々の臨床で利用する様々な社会資源が解説されており、曖昧になった知識の復習に役立ちます。
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