PR
noteメンバーシップを2024年7月から始めました。Keiが日常的に実践するミクロレベルのソーシャルワークで得た失敗経験を共有し、同じような失敗を予防していく狙いがあります。Keiは学者ではないので体験談が中心ですが、必ずみなさんの実践に還元できます。
みなさんこんにちはKeiです。
救命救急センターが設置されている病院で医療ソーシャルワーカーとして働いている社会福祉士9年目です。
社会福祉士取得後、最速で認定医療ソーシャルワーカーと救急認定ソーシャルワーカーを取得しました。
noteとX (フォロワー2,400人以上)を500日以上毎日更新しています。
ソーシャルワーク関連のブログも発信中です。
本日は、『ややこしいまま耐える精神力がほしい』というテーマを深掘りします。
ややこしいまま、耐える
チェスや将棋には、「緊張」と呼ばれる状態があります。
盤面のあちこちで、駒が互いに「取れる」「取り返せる」関係のままにらみ合い、決着がついていない状態のことです。
初心者ほど、この緊張に耐えられません。
角道が開いた途端に、すぐに相手の角を取りに行ってしまう。かくいう私もそんな立ち回りをしたことがあります。
#韻踏めた
ところが、AIと人間の対局データを比較したある研究によると、強いAIほど、この緊張を長く保ち続けることがわかっています。
駒を取る手の割合は、人間が20.2%だったのに対し、AIは13.0%。人間は、複雑な局面を早々に片づけてしまうのです。
この傾向は、考える時間が長くなるほど強まります。
早指しよりもじっくり考える対局のほうが、緊張は高く保たれ、トップ棋士が時間をかけた本格的な対局では、人間として最も高い値を記録しました。
AI同士の対局は、そのトップ棋士の記録さえ上回っていたのです。
緊張を保てないのは、人間の記憶や注意力に限界があるからだと、研究者は指摘しており、AIが緊張を保つのは、目先の得を先送りにして、対局の後半にしか見えてこない有利を育てているからではないかと考察されていました。

“取れる”のに“とらない”
ソーシャルワーカーにも、似た場面があります。
たとえば、退院支援。
医学的には明日にでも退院できる患者さんでも、退院後の生活まで見据えると、まだ退院させたくない。そんなケースがあったりします。
早期に退院できれば、「空床の確保」「DPCⅡ期以内での退院」といった側面ではメリットがあります。
チェスで言えば、目の前の駒を取るようなものです。
しかし、それは本当に「退院した」ことになるのでしょうか。
以前、心不全の方で、歩けるようになった患者さんが早期に自宅退院となりました。
ところが、しばらくして再入院してしまったのです。
原因は、食事の塩分コントロールでした。
食卓では、本人がすぐに醤油をかけてしまいます。妻が注意しても、聞き入れません。
もともと亭主関白な方だったことと併せて、妻は強く注意できるタイプではなかったようです。
一方で、再入院後に新規で介入した訪問看護の指導は、受け入れてもらえました。
#血圧・服薬コントロール目的
妻の言葉には、情があります。
「強く言えば、関係が壊れてしまうかもしれない」という思いからどうしても言葉が鈍ります。
しかし、看護師には、その情がありません。
「看護師」という肩書き自体が、ある種の権威として働きます。
わざわざ家まで来て、目の前で指導されるのですから、律儀な本人からすると、指導を受けないことに罪悪感を覚えるようです
家族という一線を越えていない相手だからこそ、聞き入れられることもあります。
「歩ける」という一手だけを見れば、退院は正解でした。
しかし、盤面全体、つまり生活全体で見れば、後々取り返される一手だったのです。
他職種との「生活」に対する解像度の違い
先ほど例にした心不全の患者さんは、「退院できるか否か」だけを見れば、退院できる患者さんです。
しかし、再入院に至った生活背景まで見ていくと、もう一手必要だったことが分かります。
だからこそ、目の前の一手を、あえて取りません。
こうした経験を踏まえて、別の患者さんでは以下のようなアプローチをしました。
家族が「先生に会えていない……」とボヤいていたことから、私は、その言葉の裏に「病状を知りたい」という思いがあると受け取りました。
そこで医師に「ご家族が、直接病状を聞きたいと言っています」と伝えて、あえて病状説明の場を挟みました。
その間に、在宅サービスの調整を進めます。
ケアマネジャーには、「医師にネチネチ言われながら、なんとか病状説明の場を設けました」と伝えます。
#実際は言われていないけど
そう伝えることで、お互いに「手を汚している感」を設計します。
片方だけが頼み、片方だけが押しつけられる関係では、連携は長続きしないからです。
#マッチャーになってはいけない

そして、こうして生まれた時間は、家族にとっても、医師から直接病状を聞ける機会が増えるのですから、満足度が上がります。
表向きは足踏みをしているように見えて、実際には、盤面のあちこちで、次の一手を仕込んでいる。
これも、緊張を保つということなのだと思います。

一手以上の先を見据える
「退院できる」「できない」だけを見るのは、ソーシャルワーカーとしてはもったいないです。
その先の外来に通えるのか、在宅サービスは間に合うのか、家に帰ってから誰が何をするのかまで見ていくと、同じ患者さんでも、打つべき手が変わってきます。
- 専門外来を受診してから退院する
- 病状説明の場をつくり、その間に在宅サービスを整える
- 家族だけでは難しいことを、訪問看護など別の支援者につなぐ
一見すると、どれも退院を先延ばしにしているように見えるかもしれませんが、実際には、その時間を使って別の場所で次の手を進めています。
早く問題を片づけることだけが、前に進むことではありません。
「あえて決着をつけず、いくつかの可能性を残しておく」
「その間に、別の場所で次の一手を仕込んでおく」
そんなアプローチも、時には必要です。
「ややこしいまま」は、何もしていない状態ではありません。ややこしいまま抱えているからこそ、打てる手が増えることがあります。
目の前の一手を急いで取るのではなく、その先の生活まで見据えてアプローチする。
「ややこしいまま、耐える」はソーシャルワーカーの立派な技術です。
▼認定医療ソーシャルワーカー兼救急認定ソーシャルワーカーが運営するメンバーシップの加入はコチラ↓
» ソーシャルワーク部メンバーシップ(/月額590円/初月無料)

ではまた。


コメント