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noteメンバーシップを2024年7月から始めました。Keiが日常的に実践するミクロレベルのソーシャルワークで得た失敗経験を共有し、同じような失敗を予防していく狙いがあります。Keiは学者ではないので体験談が中心ですが、必ずみなさんの実践に還元できます。
・ソーシャルマーケティングってなに?
・マーケティングとソーシャルワークの関係性は?
・社会福祉士がマーケティングを学ぶ意義はあるの?
一般的にマーケティングと聞いた多くの社会福祉士は「マーケティング?私には関係ない話ね」といった感じで心の中にある「興味・関心のシャッター」を閉めてしまいます。
私は医療ソーシャルワーカーとして5年以上働いている中で、経済格差や貧困に苦しむクライエントとの関わりを通して、社会全体の利益を追求する仕組みが必要であると考えるようになりました。
この記事では、社会福祉士にとって今後重要になる「ソーシャルマーケティング」について解説します。記事内容を理解することで、ソーシャルワークの思考を確実に広げることができます。
ソーシャルマーケティングは、既に様々な地域でソーシャルワーカーが展開しています。その実態を社会福祉士が把握していないだけです。この記事を読んで「あれってソーシャルマーケティングだったのか!」といったように過去の実践と結びついてもらえたら幸いです。
ソーシャルワークを理解する上で非常に重要な内容となっています。
ソーシャルマーケティングは福祉向上を意識したマーケティング
マーケティングとは、組織が行う活動のうち、顧客の支持を獲得していくための取り組みを言います。顧客のニーズを満たす製品やサービスを開発・供給することが期待されます。
ソーシャルマーケティングとは、マーケティングの原理・手法を社会との関わりを重視しながら問題解決に適用する考え方です。
アメリカの経営学者で「マーケティングの神様」と呼ばれているコトラーが、元々のマーケティングのノウハウを「非営利組織や貧しい人のための医療、地方自治体といった公共セクターにも活用していこう」主張したのがソーシャルマーケティングの発端です。
この説明で「スッキリしない!」と思っている方はコトラーが提唱した以下の格言を読んでください。
フィリップ・コトラー
- マーケティング(ソーシャルワーク)の基本となる最も重要な概念は、人間のニーズである。
- 顧客(クライエント)を理解すること。そして顧客(クライエント)ごとの異なるニーズを見抜くことが重要だ。
- マーケティング(ソーシャルワーク)は一日あれば学べる。しかし、使いこなすには一生かかる。
ソーシャルワークとマーケティングの考え方は近しいです。マーケティングの考え方はソーシャルワークに落とし込むことができます。
社会福祉士とマーケティングは関係大アリ
ソーシャルマーケティングは社会福祉士に必要である決定的な根拠は、第25回社会福祉士国家試験でマーケティングの問題が出題されているということです。
国からも「社会福祉士にマーケティングを理解して欲しい」という意図が「国家試験」というこれ以上にない伝達方法で表現しています。
問題122 コトラー(Kotler, P.)らが提唱する「ソーシャル・マーケティング」という考え方について, 正しいものを1つ選びなさい。
第25回社会福祉士国家試験福祉ー専門科目ーサービスの組織と経営122問目
1 ターゲット及び社会に便益をもたらすターゲットの行動に対して影響を与えるため, 価値を創造し, 伝達, 流通させるというマーケティングの原理, 手法を適用するプロセスである。
2 消費者による選択や顧客志向という考え方を, あまり重要視しない。
3 援助が必要なターゲットについて, 細分化せず, 同一の性格を有した, 同一の集団ととらえることが特徴である。
4 社会問題の解決について, 企業に対して社会貢献や社会的責任を求める一方, 製品やサービスを開発, 供給することは期待していない。
5 マーケティングミックス戦略の順序として, Promotion (プロモーション) が最初に決定され, 次いでProduct (製品) , Price (価格) , Place (流通) の順番で決定される。
社会福祉士国家試験の中で、特に難しかったとされる第25回での出題でした。現役の社会福祉士でもこの問題を解答するのは簡単ではありません。答えは1番です。
社会福祉士が普及しないのはマーケティング人材不足
いままで行ってきたソーシャルワーク普及活動は、ソーシャルワークをある程度把握していないと伝わらないものばかり。
— Kei@社会福祉士 (@kei5850) December 11, 2023
一言でいえば「ソーシャルワークに興味関心のない一般人向け」になっていない。
事実として、私の周りはソーシャルワークの興味関心が薄い。
マーケティング不足が否めない現状だ。
社会福祉士が普及しない理由を私は「マーケティング不足」と発信しましたが、あまり伸びませんでした。社会福祉士全体にマーケティングの重要さが伝わっていない証拠です。
社会福祉士の国家試験は今年度で36回目を迎えます。参考までに歯科衛生士は今年度で第33回目、管理栄養士は38回目です。
これらを比較すると、社会福祉士の認知度がぶっちぎりで最下位だと感じている人がほとんどでしょう。社会福祉士が普及するためのマーケティングが不足していると考えざるを得ません。
「良質なソーシャルワークを実践していればソーシャルワーカーは勝手に普及する」は幻想である。
— Kei@社会福祉士 (@kei5850) December 22, 2023
これだけ情報に溢れた社会で職人気質を貫いた結果、ソーシャルワーカーも社会福祉士も認知すらされていない。
「良質なソーシャルワークの実践」なんて当たり前の話で永遠に議論している場合ではない。
「マーケティング」という言葉を使わない表現で発信したところ、多くの反応がありました。言いたいことは上記のポストと全く同じです。
以下の記事の「医療ソーシャルワーカーあるある」の見出しにある“友人に仕事内容を聞かれたときに困りがち”という悩みはマーケティング人材不足が原因です。
ソーシャルワークとマーケティングは近しい関係
ソーシャルワークとマーケティングは異なる分野ですが、共通の要素が存在し、深い関係性があることが理解できたと思います。
資金調達や持続可能性も両者にとって共通の課題であり、社会に対するポジティブな影響を与えることが求められます。
両者はコミュニケーションと人間関係を重視し、ニーズ評価や市場調査を通じてサービスや商品を提供します。プロモーションや広報活動、サービス品質向上、顧客満足度の追求、社会への影響力の向上など、共通の目標と戦略があります。
特に必要であると感じているのがプロモーションや広報活動です。プロモーションに関しては後述する「4つのP」で詳細に解説します。
先輩:「10年くらい前は、大きい病院で社会福祉士を募集すれば、1人採用予定に対して20人くらい履歴書きたんだけど、今は、全然こないんだよな〜」
— Kei@社会福祉士 (@kei5850) May 16, 2023
10年余りででMSWが不人気職になるようなイベントって、入退院支援加算くらいしか思い浮かばない。
もしも、この考察が合っていたら死活問題になるが。
ソーシャルワークを医療ソーシャルワーカー個人の力量に任せきりにした結果、志す人が極端に減った。
— Kei@社会福祉士 (@kei5850) November 25, 2023
ソーシャルワークの理想論を抽象的に教えても国家試験勉強の延長に過ぎない。
ソーシャルワークの「質」を求めるにはそれなりの「量」をこなさないとストレングスもエンパワメントも可視化できない。
医療ソーシャルワーカーを志す人が減っています。仕事のイメージとして「きつい」印象があるようです。「きつい」以上に「やりがい」もあることをアピールしていく必要があります。
ソーシャルマーケティングと「4つのP」
ソーシャルワークにおけるマーケティングは、サービス提供や支援の品質向上に向けて戦略的なアプローチが求められます。
マーケティングは「4つのP」の各要素によって展開されています。
「4つのP」について聞き馴染みがない方も少なくないと思われるため、介護用オムツ(以下オムツ)で例えて解説します。
近年各社から多くのオムツが発売されていますが「オムツを買うときにどのようなことを考えるか」を可視化したのが「4つのP」です。
・Product:(製品・サービス)
オムツを買うときに、具体的に手に入るモノが製品です。
これを使うことによって欲求が満たされます。
・Place:(場所(集客するための経路))
同じメーカーのオムツであっても、コンビニやホームセンター、通販など様々な場所で購入します。
「どこで買うか」が買い手の選択肢であり「どこで売るか」によって売り手の成績を左右します。
・Price:(価格)
「オムツをいくらで買ったのか」です。
顧客である私たちはお金を払う。売り手であるマーケティングをする側にとっては、この「お金を払う」顧客の行動が「対価を得る」集金です。
・Promotion:(広告・販売促進)
「そのオムツをどこで知ったのか」です。
テレビのCM?インターネット?コンビニやスーパーのPOPでしょうか?はたまた、ウェブサイトの広告である可能性もあります。
今回はマーケティングにおける「4つのP」をソーシャルワークに応用して解説します。
Product (プロダクト/製品・サービス)
ソーシャルワークにおいて、提供されるサービスが「Product」に相当します。ソーシャルワーカーが提供する支援や介入プログラム、カウンセリングなどの具体的なサービスに関連します。
ソーシャルワークの代表的な「Product」といえば「面接」です。
医療ソーシャルワーカーにとっての面接は非常に重要なサービスです。「追い出し屋」にならないように注意を払いながらクライエントに対応します。
≫ 病院の「追い出し屋」と思わせない医療ソーシャルワーカーの交渉術を徹底解説
Place (プレイス/場所)
ソーシャルワークの「Place」は、支援やサービスが提供される物理的な場所やオンラインプラットフォームを指します。
クライエントがアクセスしやすく、安心感を持てる場所が重要です。
コミュニティや地域との連携も「Place」の要素として考えられます。
ソーシャルワークを「提供する」或いは「提供される」場所を指します。
市役所、地域包括支援センター、保健所、病院等様々な場所でソーシャルワークは展開されます。
最近では、遠方や海外に住んでいるクライエントとはオンラインで面接する機会も増えています。
災害時は被災地も「Place」に当てはまります。
Price (プライス/価格)
ソーシャルワークは、直接的な金銭の価格は存在しませんが、クライエントに対する負担や要求といった価値の交換が考慮されます。
これは、クライアントが支援を受けるために負担することや、提供されるサービスへの参加に関連するコストを指します。
社会福祉士との面接に行くまでの交通費負担や、障害者手帳を作成する際の医師の診断書の料金などが当てはまります。
認定社会福祉士認証・認定機構が定めたスーパービジョンや職能団体の研修はおおむね金銭が発生するため、広い意味ではソーシャルマーケティングの「Price」といえます。
診療報酬も直接個人の懐には入らないですが事実上の「Price」です。
社会福祉士が算定可能な診療報酬である「介護支援等連携指導料」や「入退院支援加算」等で組織の経営に貢献しています。
Promotion (プロモーション/広告・販売促進)
ソーシャルワークにおける「Promotion」は、サービスを知ってもらい、クライアントにアプローチするための戦略を指します。
効果的な広報やコミュニケーション戦略を構築し、ソーシャルワーカーが提供するサービスに対する理解を促進することが含まれます。
社会福祉士は「Promotion 」が圧倒的に不足しています。
社会福祉士が将来的に生き残っていくためには社会福祉士という存在を世間に「認知」してもらう必要があります。
「認知」されていなければ興味すら持たれずにこの情報社会に埋もれてしまいます。
良質なサービスを提供しても「提供された側」であるクライエントが社会福祉士の存在を認知してもらえないと永遠に普及しません。
社会福祉士が普及しない理由はnoteで解説しています。
ソーシャルマーケティングの事例【3つ】
ソーシャルマーケティングは、商品やサービスを宣伝するだけでなく、社会的な問題に対処する手段としても注目されています。日本を代表する企業も様々なソーシャルマーケティングを実施しており年々増加傾向です。
環境問題への取り組み
企業が環境に対する意識を高め、環境にやさしい製品や取り組みを宣伝することがあります。
例えば、再生可能エネルギーの使用や廃棄物のリサイクルに焦点を当て、消費者に環境への影響を考えるきっかけを提供します。
日本衣料販売の最大手である「ユニクロ」では、使用した衣服の回収を行っています。店舗で不要になった衣服を回収するボックスが設置されているのを見たことがある人は多いと思います。
素材を再加工したり、ダウン素材を再利用することで持続可能な取り組みを行なっており、SDGsに貢献されています。これはソーシャルインクルージョンの考え方と一致します。
健康意識の向上
食品、飲料メーカーをはじめとする様々な企業が、健康的な生活スタイルの重要性を訴えることがあります。低カロリー、無添加、有機食品のプロモーションや、運動の促進などがその例です。これにより、社会全体の健康促進に寄与します。
医療の発達、栄養状態や衛生環境の改善などによる人生100年時代の到来が予想されている昨今では健康寿命を伸ばすことが重要視されており、ソーシャルマーケティングは企業にも応用されています。
日本では企業戦略として「地域住民と従業員両者の健康を維持する(健康経営)」取り組みが積極的に行われています。代表的な企業は愛媛県にある「社会福祉法人大州育成園」です。
障害者支援施設を経営しており、施設の利用者とともに従業員も昼食後に20分ほど歩行運動を実施する取り組みを採用しています。こうした健康経営の取り組みを発信することで地域とのコミュニケーションを促進し、また面接時での話題のひとつとして人材採用活動にも役立てています。
公共サービス広告
政府や非営利団体は、様々な社会的課題に対処するためにソーシャルマーケティングを利用します。例えば、災害時の対策呼びかけや予防接種の普及促進などがあります。
医療業界最大手である「日本赤十字社」は、令和6年能登半島地震災害義援金活動をポスターやSNSといった様々なメディアを通して拡散してより多くの金額が集まるような工夫がされています。
私たちが即座に行えることは「募金」です。お金は物資と異なり保存ができて、必要な物を必要な時に購入することが可能です。生活必需品を寄付ことも重要ですが、交通の動線に影響がでたり、スペースを必要とするため、場所によってはありがた迷惑になる場合があります。
このようなソーシャルマーケティングは、ソーシャルアクションとも密接に関係しています。
まとめ
今回は「ソーシャルマーケティング」について解説しました。マーケティングについて知ることでソーシャルワークをより一層展開させることができるようになります。マーケティングを結果に結びつけるネゴシエーションも同じくらい重要です。
以下の記事では「心理学を応用したネゴシエーション」について解説しているので、コチラの記事もぜひ併せて読んでみてください。
このたび、Keiが実践するミクロレベルを中心としたソーシャルワークの失敗経験を共有して、各ソーシャルワーカーの実践に落とし込むメンバーシップ(初月無料で月額590円)を開設しました。
Keiがソーシャルワーク実践の過程で得た学びや、考え方、直面した問題などを「一番近くの席で見られるリアルタイム型のメイキング」みたいなものです。
認定医療ソーシャルワーカーであり、救急認定ソーシャルワーカーでもあるKeiが、メンバーシップの会員しか読めない記事を1ヶ月に3回以上投稿しており、読み物としてお楽しみいただけます。
新人MSWに是非とも読んでほしい本が以下のものです。
医療福祉総合ガイドブックは、MSWが日々の臨床で利用する様々な社会資源が解説されており、曖昧になった知識の復習に役立ちます。
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